NEC(日本電気株式会社)|責任者インタビュー
なぜNECが世界で勝てるのか?水深8,000mに「情報の大動脈」を通す、海底ケーブル事業・挑戦の全貌
私たちが日々使うスマートフォン、そして進化を続けるAI。その膨大なデータを運んでいるのが、海底に張り巡らされた海底ケーブルだ。海底ケーブルは「情報の大動脈」とも呼ばれ、大陸間国際通信の約99%を支える、まさに世界をつなぐ重要インフラ。NECは日本唯一の海底ケーブル・トータルシステムサプライヤーとして、この巨大市場の最前線に立つ。深い海の底で繰り広げられる、その壮大な挑戦を追った――。
巨大テック企業が熱望する「情報の大動脈」
圧倒的な大容量データを瞬時に、かつ安定して世界中に届ける海底ケーブル。大陸間国際通信の99%以上を担う、この極めて公共性の高いインフラ市場が今、大きな変化の中にある。そもそも、海底ケーブルとは。そして市場を取り巻く変化とは。日本唯一のトータルシステムサプライヤーとして世界トップ3に名を連ねるNEC、海洋システム事業部門/海洋事業開発の統括部長である染谷紀子さんに取材した。
まず海底ケーブルそのものについてですが、実はとても身近なものでもあります。たとえば、国際的に放映されるライブ中継動画などは海底ケーブルを経由して各国に配信されています。年々利用率が高まる「生成AI」についても、推論モデルが世界中に展開される際は海底ケーブルを経由します。
つまりAIにせよ、動画視聴にせよ、SNSにせよ、そのデータは、経路をたどっていくと海底ケーブルを通って海を越え、世界各地のデータセンター同士を行き来しているというわけです。近年では衛星通信が話題に上っていますが、爆発的に増え続ける大容量のデータを全て通すためには、やはり海底ケーブルが主流であることに変わりはなく、重要なデジタルインフラとなっています。

海底ケーブルが、接続試験用のタンクに巻き取られていく様子。主に手作業で行なわれていく。
また、近年の大きな市場変化として挙げられるのは、お客様となる事業者の変化だと思います。海底ケーブルの歴史を紐解くと、かつては国際通信を担う主要な通信キャリアが共同でコンソーシアムを組み、協力してケーブルを敷設(ふせつ)してきました。そして、国際通信を利用したい企業は通信キャリアから回線を借り受けるというのが一般的でした 。ですが、近年ではハイパースケーラー(巨大テック企業)がお客様となるケースも増えています。自社で大規模なデータセンターを運用し、AI開発やSNS運営などで日々膨大なデータを取り扱っていく。彼らが求めるのは、スピードと大容量です。
つまり、クラウドサービス需要の高まり、生成AIの普及、デジタル化の加速に伴い、世界中を駆け巡るデータ通信のニーズは、今まさに爆発的な高まりを見せているということ。そういった意味でも、海底ケーブルは加速するデジタル社会の中枢を担う、とてもエキサイティングな事業領域といえます。
また、先進国同士を結ぶプロジェクトだけではなく、新興国や島嶼国(とうしょこく)のプロジェクトもNECでは手掛けており、政府機関が主導する「国民のための通信インフラ事業」も少なくありません。海底ケーブルによって人々がインターネットを当たり前に利用できるようになる。そして、現地の教育機会の拡大、オンライン医療の導入といった社会課題の解決にも寄与していく。まさに「ソーシャルインパクト」をもたらす、非常に意義のある事業だと言えます。
NECにおける海底ケーブル事業の柱は「新規敷設」だが、同時に業界では、敷設後の維持管理・保守や修理も重要なテーマに。修理の際は、水深数千メートルにおよぶ海底からケーブルを引き揚げるケースもあり、まるで「究極のクレーンゲーム」のような高難度の作業だという(修理中もデータ流通が途絶えないよう迂回ルートによるバックアップ体制が取られる)。
日本唯一の海底ケーブル・トータルシステムサプライヤーとして
通信インフラは、世界的な潮流としても「国家として保護すべき重要な資産」と位置づける動きがある。国際情勢の変化、地政学的なリスクが顕在化する中、その重要性はさらに高まっている。
現在、日本国内において、この海底ケーブルシステムを一気通貫で製造・敷設できるのはNECだけとなっています。世界を見渡しても、市場の約90%を担っているのは実質的に世界3大サプライヤーであり、その一角がNECです。
実は日本近海には多くの海底ケーブルが走っており、欧米とアジア諸国をつなぐ、いわば「戦略的なハブ」のような役割もあります。太平洋の広大な海を渡ってきたケーブルを、信頼性の高い日本に引き込み、アジア全体へ、安全かつ安定的な流通ルートとして敷いていく。こういったグローバルな影響力を持ち、国家レベルのインフラ構築に直接携わっていく。こうしたスケールの大きさも、NECの海底ケーブル事業に携わる大きな醍醐味となるはずです。

「先端技術の統合」で切り拓く未来
日米を結ぶ海底ケーブルでいえば、ルートによって約9,000kmにもおよぶ。NECは、その設計・製造から敷設、最終テストまでをワンストップで完遂する。この巨大インフラを世界最高峰の品質で形にできる理由とは――。
NECとしての強みは、多様なプロフェッショナルが結集することで磨かれた高度な技術力と、それらを統合する力にあります。
たとえば、設計段階では、海底地形や漁業活動などを踏まえた障害が起こりにくいルート設計、大容量化を目指しつつも、コストや電力の制約条件を考慮した最適システム設計が必要です。総延長が数千キロにも及ぶ海底ケーブルならではのノウハウもあり、専門性が問われる領域です。
また、海底ケーブルシステムのプロジェクトマネジメントは高度なマネジメント力と高い専門性が問われます。3~4年という長期間のプロジェクト実行中には、国と国を結ぶ海底ケーブルならではの地政学リスクや自然災害の影響など、自社ではコントロールできないリスクが待ち構えています。そうしたリスクに対処しながら納期を守ることが求められているのです。
さらにシステムの心臓部ともいえる中継器(約90kmごとに設置される信号増幅装置)には、深海の過酷な高圧環境に耐える構造設計技術、効率的な光増幅を可能とする装置設計技術、そして中継器と長大なケーブルを数千キロの一連長システムとして接続する実装技術が凝縮されています。また、グローバル市場で多国籍のお客様と交渉する国際契約のノウハウを身に着けた営業力も強みです。こうした多様な技術の統合により、高品質で途切れない通信インフラを実現していく、それが世界的にも際立つ存在となれている理由だと思います。


海洋事業開発統括部 統括部長 染谷紀子さん
「実は私自身、少し珍しいキャリアを歩んでおり、NECには2回入社しています。転職を複数回経験する中で、再びNECの門を叩きました。だからこそ、客観的にNECの良さを人一倍理解している自負があります。NECは意思と目的意識を持った人材に対し、キャリアを主体的に描く挑戦の場を提供してくれる会社です。海底ケーブル分野の専門知識が皆無だった私に事業開発統括部の責任者を任せてくれたことが 、挑戦を歓迎するカルチャーの何よりの証明だと思っています。また、それぞれが描きたいキャリアに伴走するサポート体制もあります。ジョブローテーションなど様々なキャリアへの挑戦機会もあります。ぜひそういった体制や制度を活かし、存分にチャレンジしていただきたいです。」
多彩な人材が集うNEC。共通するのは、社会インフラに貢献していく思い
NECにおける「先端技術の統合」は、組織の多様性にも直結する。まさにキャリア採用では多彩な人材が入社し、活躍している。
先ほどお話したように、海底ケーブル事業は、通信、海洋、土木・建設、電力、製造、プロジェクトマネジメントなど、さまざまな技術と専門性の融合によって成り立っています。また、海底ケーブル・トータルシステムサプライヤーという観点では、全くの同業他社は国内に存在せず、大半の中途入社者が業界未経験です。
たとえば、出身業界だけで見ても、ゼネコン、発電所、化学プラント、大手自動車メーカーなどさまざま。いずれも「社会インフラを通じて世界に貢献したい」「世界規模のプロジェクトを通じて価値を生み出したい」といった思いで入社してくれるメンバーがとても多いです。また、私自身が大切だと考えているのは、これまで培ってきた専門性を土台としながらも、過去の成功体験や業界の常識にとらわれず、新しい領域に挑戦することを楽しめるマインドです。
実際にもそういったマインドを持ったメンバーが集まっているように感じます。そういった思いやマインドがあれば、海底ケーブルという一見すると異なる分野であっても、これまでの経験や技術を十分に活かしていただける環境だと思います。
具体的にはどういった経験・スキルが活きるのか。職種に関わらず、求めることについても聞くことができた。
たとえば、複数のステークホルダーと調整を図り、全体をまとめながらプロジェクトをゴールに導く広義の「プロジェクトマネジメント力」は、業界の枠を超えて通用するスキルだと思います。また、組織や国境、言語を越え、自ら関わる緻密なコミュニケーションにも期待したいです。グローバルなプロジェクトでいえば、その国や地域のルールがある中、法律や契約書も重要ですが、泥臭く現場へ通い、丁寧に信頼関係を構築していくことが成功に繋がる場面もあります。そして私たちはプロフェッショナル集団として、一人の属人的な力量ではなく、互いに信頼し、補完し合いながらチームワークを発揮することを重視しています。連携をしながら、いかに事前に先回りしてトラブルの芽を摘むことができるか。こういった「相互連携のバランス感覚」は、どういった職種であれば、とても大切だと考えています。
数年単位でのプロジェクトになるため、不確実なことも多いです。当然、全てが全て思い通りにいくわけではありません。そういった厳しい状況にどう向き合えるかが重要です。たとえば、工期中に台風が来たり、国際情勢の変化が諸外国の許認可発行に影響することもあります。そういった厳しい状況でも、安全に、そして着実にプロジェクトを推進していくため
に、全体像を俯瞰し、先回りして行動する力が求められます。また、もし現場のミスで船の機械を止めたり、敷設トラブルで待機を余儀なくされたりすると、莫大なロスが発生してしまいます。何よりも人々の生活に不可欠なインターネットインフラに支障をきたしかねない、そういった緊張感も小さくありません。そしてさまざまな難局をクリアし、ようやくプロジェクトはゴールを迎えられるもの。もちろんチームで取り組みますが、難局やプレッシャーを困難と捉えるか、あるいは巨大プロジェクトを自らが動かすやりがいと捉えるか。後者として捉えられる方が、より力を発揮しやすい環境だと思います。

深海数千メートルの過酷な環境下で長距離伝送時の光信号を増幅する光海底中継器
総合IT企業として、世界に新たな価値の提供を
取材後半に聞いたのは、今後の展望について。染谷さんはこの事業の先にどのような未来を描いているのか。
まず技術的な側面として、NECとして強力な優位性となり得るマルチコアファイバー(*)という技術があり、その社会実装を加速させたいです。これまでと同じだけの労力をかけて敷設したケーブルであっても、それまでの数倍の通信データを流せる可能性があり、大きなロマンを感じています。既に一部の海底ケーブルで実装されており、今後も採用拡大が見込まれています。
(*)海底ケーブルでは、ケーブル内部に収容できる光ファイバー本数に物理的な限界がある。そこでNECは、通常1本の光ファイバーに1つしかない光の通り道(コア)を複数配置するマルチコアファイバー技術を開発。たとえば、4コアファイバーでは、標準的な光ファイバーとほぼ同じサイズを維持しながら4つの独立した伝送路を確保でき、通信容量の大幅な拡大が期待されている。
(参考)https://jpn.nec.com/press/202110/20211004_01.html
また、世界トップシェアを競う3大サプライヤーの中で、 AI・サイバーセキュリティ・ソフトウェア・システムインテグレーション(SI)まで幅広く事業を展開する、いわゆる「総合IT企業」はNECだけです。そういったNECグループが培ってきたデジタル技術の強みを、海底ケーブルシステムに融合させていきたいと考えています。そうすることで敷設工事のさらなる高速化、トラブル検知の高度化など、新しい価値を生み出せるはず。総合IT企業のNECだからこそ成し遂げられる、そんな「海底ケーブルのDX」を推進し、世界に新たな価値を提供していければと思います。
NECが本事業を開始してから約60年間で敷設してきた海底ケーブルの総延長は現在約44万km、つまり「地球約11周分」に相当する距離なのですが、この先さらに地球20周、30周分にまで伸ばしていく、そんな未来をしっかりと見届けたいです。
最後に、染谷さんにとっての「仕事」とは一体どういったものだろう。
非常にシンプルですが、私にとっての「仕事」は、「人や社会の役に立っている」そう心から実感ができるものだと思います。自分が関わっている事業の価値に深く納得し、これが世界中の人々の便利で快適な生活を物理的に支えている、そういった誇りを持てることを大切にしています。そして、私自身、長く通信事業に携わってきたものの、海底ケーブル事業の経験は浅い立場です。だからこそ、この事業のスケールの大きさと技術に奥深さを感じており、とてもワクワクしています。同じ志を持つチーム全員で、この「世界をつなぐ仕事」を通してこれまでにない挑戦を楽しみたいです。
